倒錯の夏
第8章 三日目・8月8日 罠
最初は言葉少なな2人だったが、アルコールが入るにつれ、菜穂の口調も普段の明るさを取り戻しつつあった。
人口1万人足らずの小さな漁師町には、申し訳程度の”繁華街”に申し訳程度のバーや居酒屋が何軒かあるだけだった。
美津子は、脱サラ後、田舎で民宿を開きたいという夫に付いて東京からこの町に来てから、外で酒を飲むことなど滅多に無かった。ましてや夫抜きで飲みに来るなど殆ど初めてのことであった。
”地元”が近い菜穂に従う形で、その内の1軒のバーを選んだ。夜9時というのに店には年輩の男性バーテンが1人佇んでいるだけだった。美津子は少しだけ安心した。
菜穂も、誰にも聞かれる心配が無いからであろうか。昼間とは違って、”昨日あった、彼氏とのトラブル”について、ぽつぽつと、しかし後には饒舌に喋り始めた。
そんな雰囲気が手伝って、2人は速いペースでアルコールを口にしていた。だから、もう0時近くになっていることや、
背後の狭苦しいボックス席に数人の男性客が入ってきていることなど、気付いてもいない様子だった。
菜穂は、あぁ、大分気分が楽になった、と言うと、トイレに立った。その後姿を見送る美津子は、どうしてもひとりでにこぼれてしまう笑みをもてあましつつ、キールを飲み干した。
好い感じで酒が入って、熟桃のように艶付いた人妻に向かい、バーテンが笑いかける。他愛も無い会話を交わしながら,いつの間にか美津子の前には注文していないテキーラグラスが置かれていた。
「私,もう、飲めませんわ」
「いや、こんなに雰囲気のいいお客さんは滅多にいないから・・・俺の特製だよ。しかも奢っちゃう」
そのうち、菜穂も戻ってきた。
「あっ、これ、”昇天酎”」
「なんか、危ない名前ねぇ。中国酒?」
「ううん。これ飲むとね、すっごく寝付きいいの。それで、朝はお酒残んないで目覚めるの。私もいっかい作ってもらったんだぁ。おじさんオリジナルだからなかなか作ってもらえる人、いないんだよぉ」
「悪いわねぇ、菜穂ちゃん(笑)」
「いいわよ(笑)。量少ないし、一気に飲み干すのがコツよ。ほら、飲んで。帰るわよ!(笑)。」
美津子は、15CC程の液体を、毒を煽るがごとく、そのぷっくらと形良く膨らんだ唇へ一気に流し込んだ。
コメント
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コメント (1)
これ懐かしいですね。
もっと続きがあって旦那視点でSEX中の奥さんと対面するシーンまで作者が書いていましたが、その後すぐにサイトごと消滅してしまいました。
あとこの作品とほぼ同じ文章表現の作品に「体験告白、嬲り犯される心」があります。
この作品の方が古いオリジナルで「体験告白、嬲り犯される心」の方がパクリの盗作です。