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倒錯の夏

第19章 四日目・8月9日 余韻/主人

 

俺はぐったり来ていた。せっかくヒマな日が過ごせると思っていたのに、朝っぱらからガキどものために、海で奉仕の連続だった。

なんでも、不良たちの”社会復帰リハビリ”の一環として、明日からチーム編成してビーチバレーなんかやるらしい。

即席の部活ごっこが何の役に立つというのか知らないが、小村健司はやけに熱心だった。そのとばっちりは俺にも降りかかり、「折角だから」という訳の分からない理由で参加を勧められた。

朝から小村健司を始め子供らと海に缶詰という状況は不利だった。それでも、俺は、仕事を理由に頑なに拒否し通した。

しかし、小村みのりも、菜穂も、それに美津子までも、選手としてプレイすることになっているという健司の話は私の不安感を鼓舞し、一旦は参加に同意しかけそうにもなった。

妻の口からはそんなことは今朝まで一言も聞いていなかったし、まして学生時代から運動とは縁遠い奴なのに、簡単にこんな話に応じるのは少し妙に思えたのだ。

いや、それ以上に、あの不気味な中学生達の存在が、本当は不安だった。実は、海で、小村健司からこの話を持ちかけられた後から、ふと中学生達と妻の姿を重ねて考えることが多くなっていた。

「奥さんとしてぇ・・・」たかが子供・・とは思うものの、あの中学生の言葉が、自分にとって思いのほか重いことをその度に自覚した。

民宿には、5時頃帰りついた。厨房を覗くと、菜穂が夕食の準備にかかっていた。そして、驚いたことに、小村みのりが彼女を手伝っていた。

「あれ?みのり、さん?いいんですよ、それはウチのに任しといてください。」

みのりは相変わらず俯き加減の暗い感じで、メガネの奥の眼線を俺に合わせずに答えた。

「いえ、・・奥さん、大分お疲れになっているから・・・・」

後を菜穂が引き継ぐ。

「今日のトレッキングで奥さん、疲れちゃったみたいで。みのりさんが手伝ってくれてるんです」

「言わんこっちゃない。明日からのバレーも、大丈夫か?」

「・・すみません。でも、奥さん、自分で準備するって言うんですけど、私達が半分無理やり引き止めたから・・・」

みのりの言葉に、私はちょっと面食らった。

「あ・・・、あ、そう?そりゃあ、どうも・・・ありがとう。そうか・・じゃ、すいません。今日だけ」

私は、やっとそれだけ言うと、上階に向かった。

リビングに妻の姿は無かった。家中を探し回り、屋上のベランダの扉が開いているのに気付いた。私は、何気なく、ベランダに足を踏み込んだ。

ベランダには物干し竿に釣られたシーツが幾重も並んでいた。妻の姿は見えなかったが、風にはためくシーツの奥に人間の気配がした。

予感がした。そして、当たっていた。躊躇せず、私は2人が潜むシーツを払った。

中学生と、美津子が、一緒にいた。私は、二人が衣類の詰まった洗濯籠を挟んでしゃがみこんでいるのを目の当たりにした。

不意をつかれた中学生の眼が私と合う。自分の顔が引きつっているのがわかった。

「あ・・、ご主人さん・・・」

空々しい。人の家に上がりこんで妻となにしてる?妻が私の殺気を感じたらしく、口を挟む。

「あ・・、今日、直樹君・・この子とハイキングに行って、私がちょっと疲れ気味だったから、この子から洗濯、手伝ってあげるっていってくれたの・・・」

妻の頬が熱い余韻で上気しているように、その時の私は感じた。

私は、自分の中の大人を危うい均衡で保った。まだ子供だ。それに客だ。・・この野郎!

「とにかく・・、ここは、俺の家だ。勝手に入られちゃ、困る。階下に行ってもらえないか」

精一杯だった。”直樹”は私の様子を一応は察したらしく、「すいませんでした」と一言残し、私の横をすり抜けて行った。

それは一瞬だったが、素直な態度とは対照的に、その体躯は私を圧倒した。中学2年生はすでに大人になりかけている。本能的な恐怖を感じた。

しかし、全ては私の、被害妄想かもしれなかった。

「なに、してたんだ?」

「え・・?」

絶対に、おかしい・・・?

「あいつと、ここで、今日一日、何してたんだ?」

妻の頬が冷めた・・・ようだった。

「だから・・・何が言いたいわけ!?あの子の他に菜穂ちゃんやみのりさんや、ほかの子供と一緒に、ハイキングに行って、帰って洗濯してただけじゃないの!!」

「・・・・」

完全に、いつもの調子だった。

「・・・・あなた何考えてるの?・・・・・・変態じゃない??それに、あんな子供の親切台無しにして・・・・!」

妻は吐き捨てると、干し終わっていない大量の洗濯物をかかえてベランダから出て行った。

ベランダの床は、シーツから滴が落ち、大きな染みになっていた。

 

 

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コメント

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  • コメント (1)

    • 通りすがり
    • 2019年 8月 25日

    これ懐かしいですね。
    もっと続きがあって旦那視点でSEX中の奥さんと対面するシーンまで作者が書いていましたが、その後すぐにサイトごと消滅してしまいました。
    あとこの作品とほぼ同じ文章表現の作品に「体験告白、嬲り犯される心」があります。
    この作品の方が古いオリジナルで「体験告白、嬲り犯される心」の方がパクリの盗作です。

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