倒錯の夏
第13章 四日目・8月9日 散策
民宿から少し出たところにある県道の脇はもう山の裾野で、奥には森が広がっていた。森の一部はキャンプ用に整備され、広い原っぱとわずかな遊具施設がある。
その広場からは、トレッキング用の小道が鬱蒼とした森の中に延びていた。美津子は、軽い足取りの菜穂の後ろに付いていた。
その数メートル後方からは、中学生1人と小学生2人がお互いにじゃれあう声が聞こえてくる。美津子は菜穂の後姿が気になっていた。
菜穂のランニング用の短パンに青のTシャツという格好は若い身体によく似合い、一見、とても健康的に見えた。だが、軽い上り斜面を太腿を揺らして歩くその後姿はやけに艶めかしくもあった。
張りのあるすらりと長い脚は、一歩踏み出す毎に上下に揺れる尻に繋がっている。その大き目の尻は薄い短パンの生地を通して、肉の動きをあからさまに伝えてしまう。
歩行によって脚から伝わる振動は、尻の筋肉を震わせ、上半身の動きが尻の上下動をさらに際立たせる。その姿は、すなわち、美津子の後姿でもあった。
そして、美津子は背後を歩く、幼い獣たちが投げかける視線を身体が感じつづけていた。
菜穂からハイキングに誘われたのは朝食時だった。宿泊客の子供らは、海班と山班に分かれ、一日を過ごすという。小村夫妻は妻のみのりが山班を、夫の健司が海班を引率するらしい。
昼食はバーベキューなので、昼食の準備もなく、めずらしく暇な一日になるはずだった。
「奥さん、みのりさんが、一緒にどうですか、って。私も行くんです。一緒に行きましょうよぉ」
「え・・でも、・・・いろいろ残してる仕事もあるし・・」
同行者が小村健司でなく、みのりであることに少し安堵したが、美奈子は昨日以来、小村健司や子供らと接することに不安を感じていた。
その不安は、実は自分に対する不安そのものであったが、それを自覚することを、女は無意識のうちにあえて避けていた。
「え~、みのりさんも、女2人じゃ不安だからって言ってるんですよ。ただの遊びじゃないんですって」
菜穂の口調からは遊びに行くようにしか取れなかった。
「じゃ、主人と一緒に行けば・・」
「ご主人さん、健司さんと海に行くって。奥さん一人残るのも癪じゃないですか・・・ね~、いきましょうよぉ!」
「・・・・・・・。」
なぜか、今ひとつきっぱりと断れない美津子らしくないその態度は、「無意識に押し込めた不安は願望の裏返しである」という定説の証明なのかもしれなかった。
菜穂は敏感に察知した。
「じゃ、決まりですね!外、暑いから私のウェア貸しますよ。あと、スニーカーじゃなきゃダメですね。奥さんと私、サイズおんなじだからこれも持って来ますね。あと、帽子も持ってかないと。奥さん、持ってます?」
トレッキングやウォーキングなどという言葉に無縁な美津子に向かって畳み掛ける菜穂は、彼女に発言の隙を与えなかった。
「じゃ、1時間後に出発ですからね。集合は県道の自動販売機の前ですからね!時間厳守ですよ!」
言葉のない美津子を事務所に残し、菜穂はさっさとドアを開けて出て行った。
コメント
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コメント (1)
これ懐かしいですね。
もっと続きがあって旦那視点でSEX中の奥さんと対面するシーンまで作者が書いていましたが、その後すぐにサイトごと消滅してしまいました。
あとこの作品とほぼ同じ文章表現の作品に「体験告白、嬲り犯される心」があります。
この作品の方が古いオリジナルで「体験告白、嬲り犯される心」の方がパクリの盗作です。